注目の4社に訊く、「鹿児島市×クリエイティブ企業」のいまとこれから
九州の南端にある鹿児島は、県のシンボルでもある活火山・桜島や、屋久島、奄美大島などの美しい島々があり、ダイナミックな自然の息吹を感じられる場所。近年は県庁所在地である鹿児島市に、さまざまな企業が参入しており、クリエイティブ企業を中心にユニークな取り組みを展開しています。
今回は、そんな鹿児島市のクリエイティブ業界事情を知るため、市内で活躍する企業4社に、事業内容や自社の魅力、鹿児島市ならではのやりがいについて語ってもらいました。
- 文:宇治田エリ
- 編集:市場早紀子(CINRA)
公開日時:2020/09/30
鹿児島市のクリエイティブ業界の現状は? 企業4社に訊く
人口約60万人を擁し、南九州の中核都市として発展を続けている鹿児島市。大都市ではないものの、人々を癒す自然豊かな環境を武器に、暮らしやすさや働きやすさ、より豊かな暮らしをもたらす文化レベルのバランスが整えられつつあります。
画像提供:鹿児島市
そんななか、鹿児島市では新しい視点を携えたクリエイティブ企業の活躍が注目されています。この地だからこそ叶えられるクリエイティブとは、どのようなものがあるのでしょうか?
1. GMOペパボ株式会社
自社のテクノロジーを活かして、地元産業を活性化
東京と福岡、そして鹿児島にオフィスを構えるGMOペパボ。「インターネットで可能性をつなげる、ひろげる」というミッションを掲げ、ホスティング事業やEC支援事業など、個人から法人まで幅広い層へ向けたサービスを展開する会社です。
同社では、クリエイターのオリジナルグッズを作成・販売するサービス「SUZURI」を運営。鹿児島市のサッカークラブ、鹿児島ユナイテッドFCの公式グッズも販売されています。また、国内最大級のレンタルサーバー「ロリポップ!」を運営しており、鹿児島市で毎年開催されている音楽フェス『THE GREAT SATSUMANIAN HESTIVAL』公式サイトへのサーバー提供もしているそうです。
そんな、多くの人が活躍できる環境づくりを目指すGMOペパボの魅力を、鹿児島オフィスチームのエンジニア、池田昭仁さんにうかがいました。
(左)売り手と買い手をつなぐハンドメイドマーケット「minne」 (右)鹿児島ユナイテッドFCの「SUZURI」ショップで販売しているグッズ
Q. 自社のいちばんの強みや魅力は?
パートナー(従業員)たちが、「みんなと仲良くすること」「ファンを増やすこと」「アウトプットすること」の3つを大切にしているところです。社内外問わず、勉強会で知見を共有するなど、お互いに高め合い、成長できる環境があります。
Q. 職場環境に特徴はありますか?
現在は、リモートワークが基本の勤務体制となり、個人の学習や家族との時間を持ちやすくなりました。さらに、パートナー一人ひとりがより快適で健康的にリモートワークができるよう、業務時間内に運動ができる制度を設けるなどの取り組みも行っています。
ほかにも、デスクなどの購入補助制度や、オフィスチェアの無償貸与を活用し、パートナーはそれぞれ快適な仕事環境を整えている(画像提供:GMOペパボ)
Q. 鹿児島市で事業展開するからこそのやりがいは?
鹿児島市を盛り上げようとしている方々とのコミュニティーが、少しずつ広がっていくところです。例えば、自治体や地元の企業・団体と一緒に取り組みを行うときは、地域とのつながりが深まっていることを体感しますね。
Q.鹿児島市のクリエイティブ企業として、今後どんな役目を果たしていきたいですか?
今年3月に、市内の中小企業者のICT活用を促進するため、鹿児島市と連携協定を締結しました。GMOペパボが持つノウハウや知見を活かし、地元企業などにホームページやネットショップ開設の支援をしたり、セミナーを開催したりするなど、産業の活性化に取り組んでいます。
今後も人や企業をつなぐハブとして、私たちのテクノロジーを応用しながら、地域の活性化と雇用機会の創出に貢献していきたいです。
Q. 鹿児島市の好きなところは?
おいしい黒豚・黒牛が食べられること! また、桜島が盛大に噴火する様子は圧巻で、ほかの地域にはない特別な魅力。おいしい食べもの、豊かな自然、便利な都市部、これらすべてが日々の活動に良い影響を与えてくれていると思います。
焼肉はもちろん、しゃぶしゃぶ、とんかつは絶品!(画像提供:GMOペパボ池田さん)
2. ひふみよ株式会社
クリエイティブ×福祉の力で社会の課題を解決
クリエイティブエージェンシー事業を通じ、障がい者就労の分野で新たな取り組みをしている、ひふみよ株式会社。企業やプロダクトのブランディングをはじめ、ウェブメディアの「HIFUMIYO TIMES」の運営、フリーペーパーの発行など、幅広いジャンルのクリエイティブを展開しています。障がいを持つ方々が各事業のリサーチや企画、ライティングなどに携わり、それぞれの個性を活かして活躍しています。
自社で手がけるアパレルブランド「INSTINC」は、ラフォーレ原宿の期間限定ショップに出展するなど、鹿児島を拠点とした同社のクリエイティブが全国へ広がっています。そんなひふみよの魅力を、代表取締役の白澤繁樹さんにうかがいました。
(左)障がい者の「はたらく」を応援するフリーペーパー『ひふみよタイムズ』 (右)就労継続支援B型事業所「ひふみよベース紫原」のメンバーたちが生み出すデザインTシャツブランド「INSTINC」
Q. 鹿児島市で事業展開するからこそのやりがいは?
私たちは、これまで働く機会が限られていた障がい者のみなさんが活躍できる場をつくりたいと考え、立ち上げた会社です。「INSTINC」のラフォーレ原宿出展など、東京の案件も積極的に手がけるのは、県外の方に私たちのクリエイティブを認知してもらう機会を生み出すため。ひふみよの取り組みが、全国の障がいを持つ方々の希望につながることは大きなやりがいです。
ひふみよベース紫原のオフィス(画像提供:ひふみよ)
Q. 自社のいちばんの強みや魅力は?
障がい者の方は、リサーチ能力に長けているなど、一人ひとり優れた個性を持っているので、コンセプトづくりから一貫したクオリティーの高い作品を生み出すことができます。クライアントからの信頼も非常に厚いです。
Q. 職場環境に特徴はありますか?
規定枠にとらわれない自由な働き方ができます。福祉事業所としての側面も持つため、これまで就労が難しいと思われていた4級の障がいを持つ方にも、リモートワークでの受け入れを行っています。
Q.鹿児島市のクリエイティブ企業として、今後どんな役目を果たしていきたいですか?
150年ほど前は日本やアジアで最先端の感覚を持っていた鹿児島。その中心地だからこそ、よりクリエイティブな街になっていけるよう周囲にも働きかけていきたいです。クリエイティブ産業と福祉のかけ算で創造する立場として、誰もが活躍できる社会につなげることを目指します。
Q. 鹿児島市の好きなところは?
市内から車で30分ほど走ると、自然豊かな場所へ行けるので、さまざまなアクティビティーを楽しめるところです。そういったリフレッシュの時間が、事業の良いアイデアやクリエイティブの源になっていますね。
食・海・山・川・温泉、すべてが魅力!(画像提供:ひふみよ白澤さん)
3.ARIO株式会社
ワンストップだからこそのクオリティーで、地域の魅力を最大化する
クライアント・お客様・制作スタッフの三者がハッピーになれる、「トリプルハッピー」の理念のもと事業を展開する広告代理店、ARIO株式会社。奄美大島DMO(観光地域づくり法人)のメディア展開や、観光地のウェブ施策をはじめ、地元企業や病院、ホテル、学校、飲食店など、地域に根ざした案件を数多く手がけています。
クライアントの目的に合わせた戦略を策定し、メディアプランニングからデジタルマーケティング、そしてクリエイティブまでワンストップで手がける。そんなARIOの魅力について、ウェブディレクターの吉井景子さんにうかがいました。
(左)奄美群島観光PRで関西地区主要4駅に展開したデジタルサイネージ (右)木曽の滝の周辺観光情報を掲載したサイト「とと、東洋のナイアガラ 曽木の滝 轟の里 観光ガイド」
Q. 自社のいちばんの強みや魅力は?
鹿児島市では珍しく、広告会社として社内にクリエイティブ部門を持っているところです。企画から制作、運営まで、チームメンバーが同じゴールを共有したまま進められるため、スピーディーに、ブレなく一貫したプロモーションができます。
Q. 職場環境に特徴はありますか?
社員同士が業務をフォローできる体制を整えているので、長期休暇も取りやすいです。毎年フェスに参加する社員もいれば、定期的に海外旅行に行く社員もいて、プライベートを充実させられる環境が、仕事の活力にもつながっていると思います。
以前よりデータのクラウド化や、社内業務ツールのアプリ活用を進めていたため、現在は全社員がリモートワークで対応している(画像提供:ARIO)
Q. 鹿児島市で事業展開するからこそのやりがいは?
地域密着型の案件が多いので、地元に貢献できることです。観光プロモーションなど、影響力の強い大規模プロジェクトにも中心メンバーとして関われるため、手がけた広告が主要都市で展開されるときは、大きなやりがいを感じます。
Q. 鹿児島市のクリエイティブ企業として、今後どんな役目を果たしていきたいですか?
いまはスマートフォンやSNSなど、メディアのトレンドが目まぐるしく変化する時代。その現状を素早くキャッチし、柔軟に対応したコンテンツをいち早く提供することで、地元企業だけでなく、鹿児島市のクリエイティブ業界の成長にも貢献できる存在になりたいです。
Q. 鹿児島市の好きなところは?
食べ物がおいしく、海と山が身近にあり、リフレッシュしやすいところです。おすすめは、磯海水浴場(鹿児島市吉野)近くにある、FACTORYというお店。雄大な桜島と錦江湾を望める最高のロケーションがお気に入りです。ハンバーガーや、具だくさんで厚めのサンドイッチもおすすめです!
おすすめスポット「FACTORY」からの景色(画像提供:ARIO吉井さん)
4. 株式会社クエイル
最先端のテクノロジーで「おもしろい!」をカタチに
株式会社クエイルは、東京と鹿児島にオフィスを構え、スマートフォンアプリや、ウェブサイト、デジタルコンテンツの制作などを中心に手がけるクリエイティブ集団。
近年では、URBAN RESEARCHのスマートフォンアプリの開発から、コロナウィルス感染症に関連して、鹿児島の事業者を応援するウェブサイトの制作など、地域密着の事業まで、幅広く取り組んでいます。
クライアントやユーザーだけでなく、つくり手であるデザイナーやプログラマーまで「おもしろい!」と感じられることを大切にしているクエイルの魅力を、代表取締役の池田武尚さんにうかがいました。
(左)URBAN RESEARCHのスマートフォンアプリ (右)ドキュメンタリー番組『セブンルール』の番組風動画がつくれる「ルール動画ジェネレーター」
Q. 自社のいちばんの強みや魅力は?
企画から、デザイン、サーバ構築、開発まで、すべての工程を一気通貫で制作できることが強みですね。動画ジェネレーターなど、最先端の技術も扱えるリソースを鹿児島の一社だけで兼ね備えているので、大規模な案件にも多彩なアプローチで対応できます。
月に一度、クジで組み合わせを決めてランチをするイベントも行っている(画像提供:クエイル)
Q. 鹿児島市で事業展開するからこそのやりがいは?
これまでITに関連するクリエイティブビジネスの機会は、都市部に偏りがちと言われてきました。ですが、有名企業のアプリ開発など、鹿児島でも都市部のような大規模プロジェクトができると成果を持って証明できたのは、大きなやりがいになりました。
Q. 鹿児島市のクリエイティブ企業として、今後どんな役目を果たしていきたいですか?
これまで培ったノウハウを「鹿児島発」として、サービス展開したいです。そのためにも、ほかの業種とも積極的にコラボレーションをして、事業の幅を広げることが大事。互いの得意分野を活かしながら、新たな挑戦をしたいですね。
Q.鹿児島市の好きなところは?
鹿児島市は、東京や大阪といった都市部と距離があるように見えますが、飛行機を使えばじつは近い。そんなほどよい距離感がとても好きですね。また天然温泉の銭湯が楽しめる点も大きな魅力のひとつです。
薩摩半島の南側にある番所鼻自然公園。海側に伸びる岩を伝って海上を歩くことができ、薩摩富士と呼ばれる「開聞岳」も見える絶景スポット(画像提供:クエイル池田さん)
今回、4社へのインタビューからわかったのは、鹿児島市にも独自の取り組みや、高い技術を持ち合わせた魅力的なクリエイティブ企業がたくさんあるということ。もしかしたら、鹿児島市のクリエイティブ企業には、クリエイターの熱い志を叶えるチャンスが広がっているかもしれません。