アプリファクトリーはるni株式会社
代表取締役 野下彰太のした しょうたさん

鹿児島市ではクリエイティブ人材の誘致に力を入れていますが、今年度も、観光型の移住体験に加え、地域企業でのクリエイティブワーク(付加価値を創造する業務)を通して「働く街」としての鹿児島を体感していただくことで、関係人口の創出を目指すジョブケーション型の移住体験プログラムを企画しています。「住む街」としての生活環境に加え、地域企業とのクリエイティブワークを通して「働く街」としての鹿児島 を体感していただく予定です。ジョブケーションの受け入れ先企業に、事業内容や自社の魅力、鹿児島市ならではのやりがいについて語っていただきました。

Q.「アプリファクトリーはるni株式会社」は、どのような経緯で設立された会社ですか?

元々関東でフリーランスとしてゲーム関係の仕事をやっていたのですが、自分が24歳のときに家庭の事情で鹿児島に戻ってこないといけなくなったんです。その時、東京の取引先からの案件はほとんど終わらせていて、その後の仕事を受けようと思っても、当時リモートとかそういう概念すらあったかどうかの時代だったので「鹿児島では東京の仕事は続けられないな」という感じで仕事が終わってしまいました。鹿児島に帰ってきてからゲーム会社を探したんですけど一社もなくて(笑)
それで一旦システム会社に入社したのですが、30歳になった時に「やっぱりゲームが創りたい!」ってなって個人事業として始めました。それこそ最初は鹿児島市の新規創業者の育成支援施設である〈ソーホーかごしま〉に事務所を構えて、個人事業で2年、その後に法人登記して3年、計5年お世話になりました。
今では場所も変わり、社員も増え、面積も広くなり、9年経ってだいぶ変わりましたね。
唯一そこにあるソファーだけは変わってないので、私たちの歴史を全部見てきています(笑)

Q.社員は何名で、どのような方がいらっしゃいますか?

現在50名以上の社員が働いています。平均年齢は20代後半くらいですね。
ただ、うちの会社はUIJターンの人が1人か2人ぐらいしかいなくて、95%以上が鹿児島出身で就職してくれた人です。
新卒で入った社員も多いですし、あとは鹿児島でゲーム以外の仕事をしていて、でも本当はゲームを創りたかったということで転職してくる人もいます。20代後半くらいの年代だと、まだ当人たちが就活のときにうちの会社はなかったので、別の会社に勤めて、最近になって見つけて「ゲーム会社あるじゃん!」って(笑)

Q.お仕事の内容はどのような感じですか?

社員の中でプログラマーと言われる人と、アニメーションやイラスト制作をやる人と大体半々くらいです。プランナーと言われる企画チームも3人くらいいますが、受託案件だと先方が既にプランニングしていることが多いですね。「大体これくらいの予算があって、こんなものを創って欲しいです」みたいな依頼が来た時は自社でプランニングから考えることはあります。

Q.ゲームを創る上での信念みたいなものはありますか?

ゲームを創る上での基本的な信念として、「ゲームをプレイした後に体験が残っていること」を常に考えて創っています。10年後くらいに思い返したとき、「あの時なんか無駄なことしてたな〜」って思うことがないゲームにしたいと思ってやっています。ただ、そうは言いつつ、受託の事業も多い会社なので全部が全部というわけにはいかないのですが、なるべくそういうプロジェクトに関わっていきたいし、そういう仕事の割合を増やしていきたいと思っています。
それと、いわゆるファミコン世代の人たちが、大人になって結婚して家庭を持って、ある程度の年齢の子供がいる時代になってきたので、そんな家庭の親子間のコミュニケーションツールとしての一面もゲームが担えたらいいなとも思っています。

Q.社員の方にとってのメリットや福利厚生という点で、何か特徴はありますか?

例えばここの部屋(広いスペースに大きなモニターといろいろなゲームマシンやソフトが置いてある)は主にミーティングに使っているのですが、週末の終業後に社員が集まってここでゲームをしていたり、話題の新作ゲームの発売日には会社を休みにして、遊びたい人はそのゲームに触れる日としてみたり。みんなゲームが好きでうちの会社に入ってくれているので、ゲームができる環境というのは会社としても整えてあげたいと思っています。支給品でもパソコンはもちろんですが、ゲームのハード機も貸与という形で支給したりしています。社員がゲームに触れられない機会損失が勿体無いので、できる限り会社でフォローしたいと思っています。

Q.御社の特徴や魅力などを挙げるとしたら、どういうところになりますか?

チームワークの良さですかね。個人プレーで能力を発揮するというよりも、ある程度みんなで協力して創り上げるという意識を強く持っているので、ちょっとしたことでも言い合えるというか、心理的安全性が保たれている職場だとは思います。でもこれは、良さであると同時に、この環境に馴染めない性格の人もいるかもしれないので何とも言い難いですが(笑)。
東京の会社さんと話していると、転職が多いという話をよく聞くんです。プロジェクトが終わったら転職するとか、そうすると5年かけてチームワークを上げるみたいなことはできないわけじゃないですか。でもうちに入った人って5年後も多分うちにいるし、そこを踏まえて5年後を見据えたチームビルドをしていけば、東京の会社には真似できないものがあるのではないかな、とは思っています。
実際に長期の案件もいただくことは多くなってきました。ゲームは2〜3年かけて創ることが多いんですけど、東京の会社だと2〜3年すると人がガラッと入れ替わっていて、「最初のノウハウをほとんど蓄積していない!」みたいなことがあるらしいんですね。
でもうちの場合だと、プロジェクトをスタートしてから終了するまで同じメンバーで関わり続けられるので「一番コアの部分ははるniさんに携わって欲しいです」と言われることもあって、このあたりが特徴というか、強みなのかなと感じますね。
あと、最近で言えばAIが各所で話題になっていますが、これも社内で自分が指示するよりも先に〈AI促進課〉というのが立ち上がって、社員自ら模索し始めました。自分は方針だけ決めて「こういう作業だったら許可を取らなくてもどんどん現場を動かしていいよ」というルールにしました。そしたらどんどんプロジェクトの中で、「ここの部分は使ってもいいんじゃないか?」みたいな判断もして、自分のところには最終確認だけ回ってきます。
こういう動きは本当に関係性があるからできることで、それこそ飲みに行った流れで話が盛り上がって、次の出社時にはそれが実行に移されるみたいなことも多くて。多分、チームワークができているからだろうなと思います。

Q.ゲームを制作する上では、想像力や感性の部分も重要になってくると思うのですが、東京の環境と鹿児島の環境とで多少なりとも影響する部分はあるのではないですか?

それは間違いなくあると思っています。物を創るということは、その人の人格や経験などが映し出されるものだと思うので、やっぱり環境が違えば違うものが見えるということはあると思います。でも現状それが具体的にどう変わってくるか、言語化レベルまで落とし込めているわけではないので、自分たちは一旦それを信じてやってみている。という段階ですね。東京でも鹿児島でも、みんな一生懸命に創ってはいるけれど、環境によって何かその人たちの強みがあるのではないか?ということを信じてやってみているという感じです。

Q.今後のビジョンや夢などがありましたら教えていただけますか?

一番近い目標だと、「鹿児島にゲーム会社が建てるビルを造りたい」っていうのがあります。鹿児島にもゲーム会社があるんだよっていうシンボル的なものが欲しくて、それは起業時に一番最初に立てた目標でもあります。ちょっと変わった形であったり、何か少し話題になるような、誰が見てもわかるようなものを造って、「鹿児島にもゲーム会社があるんだ」って認知してもらえるものが造りたいです。

もう少し先の話をすると、「100年後に鹿児島で生まれた人たちが、ちゃんとその時代のエンターテイメントの仕事を地元で創れている100年後」になっている未来をつくりたいですね。そして「鹿児島にゲーム業界を創る」ためには会社としてもちゃんとレベルアップして業界を牽引していかなくてはならないと思っています。