【クリエイター対談 vol.2 - 中野由貴 × 吉満瑞貴】

鹿児島市ではクリエイティブ産業振興の一環としてクリエイターの移住促進に力を入れています。2022年度は、ここ数年で鹿児島にUIJターンしたクリエイターの方々に2人ずつ登場していただき、鹿児島へのUIJターンを経験した中でのおすすめポイント、苦労話やクリエイティブシーンについて対談していただいています。4か月連続、全4回の動画で生の声をお届けしていますので、是非ご覧ください。

公開日時:2022/07/13

中野 由貴

1987年鹿児島市出身。高校卒業後、上京。2008年桑沢デザイン研究所総合デザイン学部卒。東京ピストル、LABORATORIESなどの制作会社を経て、フリーランスに。2018年に拠点を鹿児島に移し、東京と2拠点で活動中。子供1人の3人家族で子育て真っ最中。書籍を始め、さまざまな媒体のアートディレクションやグラフィックデザインを担当する。代表的な仕事に、ももいろクローバーZの公式パンフレットのデザインなどがある。
https://nakanoyuuuki.tumblr.com/

吉満 瑞貴

1990年鹿児島県指宿市生まれ。高校卒業後渡米し、Academy of Art University Web Design & New Media卒業。東京でウェブサイト制作やPR、編集業務に携わったのち、ECサイトの運営会社で制作を担当。 2021年1月に独立し鹿児島へ拠点を移す。ECサイトをはじめとするウェブサイトのデザイン・構築を中心に、パンフレットなどのグラフィックデザインも手がける。
https://dokkoi.design/

■現在の活動とライフスタイルなどについて

中野:グラフィックデザイナーをしている中野由貴と申します。現在、旦那と1歳8カ月の息子と3人で生活しています。最近、中古物件を購入し、そこをリノベーションして事務所兼自宅にしています。
仕事としては、ももいろクローバーZというアイドルの公式パンフレットを今まで20冊、現在ちょうど21号目を制作中なのですが、約10年間ずっと制作させてもらっています。直近の仕事でいうと、鹿児島中央駅の近くにオープンしたLi-Ka1920という商業施設で隔月開催される「小庭市」というマーケットイベントのビジュアル制作をさせてもらいました。

吉満:dokkoiという屋号でウェブデザイナーをしている吉満瑞貴と申します。私は主にウェブサイトのデザインやコーディング構築を行っていて、あとはフライヤー、イベントのチラシなどの紙物のデザインも少し手がけています。普段は一人暮らしをしていますが、名山というエリアに事務所を借りて、そこで仕事をしています。主な仕事としては、鹿児島の甑島の山下商店さんのオンラインショップ制作とサポートを継続的にさせていただいています。前職でオンラインショップの運営の仕事をしていた事もあり、ネット通販の仕事を多くやらせていただいています。

中野:dokkoiという屋号について、実は気になっていたんですけど、何か由来があるのですか?

吉満:英語とかフランス語とかよりも、日本に昔からある言葉がいいなと思っていました。「どっこいしょ」って言葉がありますが、クライアントさんと一緒に大きな大切な何かを持ち上げるみたいな意味や、元々「どこへ行く?」というような疑問を投げかける意味もあるらしく、「今あるものに疑問を投げかけて、新しいことをやっていく」という意味で、独立する時にこの屋号を考えました。

■UIJターンのきっかけについて

中野:私は鹿児島出身ですけど、昔から東京に出たいという気持ちがありました。「鹿児島は田舎だから嫌だ」と思っていたので、「東京でビッグになってやる」と出て行ったんです。ただ、東京に出て5~6年ぐらい働いた時、凄い人が一杯いる中、私の存在意義って何なんだろうって思うようになりました。そこで、「何か鹿児島に関わることをしよう」とぼんやり考え始めて、南九州市で行なわれていた「南薩トライアルステイ」に参加したのがきっかけです。現実的にUターンについて考え始めて、地域の人と触れ合ったり、リモートワークが田舎でどのくらいできるのかな、みたいなことを実験してみて、割とできるなと思うようになりました。既にその時には東京と鹿児島の2拠点を行ったり来たりしていたんですけど、東京の仕事先の方がリモートワークについてはフレキシブルに考えてくださる方が多かったので、「暮らしやすい鹿児島でやってもいいかな。」と思って帰って来た感じです。

吉満:私は鹿児島県の指宿市出身で、高校は鹿児島市の学校に通っていました。当時は「県外に出たい、東京に行きたい、都会が好きだし、海外にも行きたい」と思っていました。実際、高校卒業後、アメリカのサンフランシスコの美大に進学したんです。海外もとても良かったし、数年働いた東京も良かったですけど、時々鹿児島に帰って来てみると、それまで目を向けていなかったけど、いい所がたくさんあるなという事に気が付きました。これから先、何かやっていくんだったら、個人的には鹿児島でチャレンジしたいという気持ちが芽生えて来たので、去年Uターンをしました。
Uターンの前には移住ドラフト会議っていうイベントで、鹿児島のいろんな地域や人と繋がったり、鹿児島市がやっていたクリエイター向けのお試し移住に参加して、鹿児島市で働くってどんな感じなんだろうっていうのを体験したりしました。徐々に現実的にしていって、これだったらやっていけるかなっていう状態まで持っていってから、実際に移住して来ました。

■鹿児島での暮らしについて

中野:鹿児島の暮らしでいいと思うところは、自然がとても近いことかなと思っています。車で5分10分行けば山もあるし、海もあるし、川もある土地っていうのは結構面白いなと。仕事でワーッとなった時に息抜きできる所とか、ボーっとできる場所がたくさんあるっていうのはやっぱりいいなって思います。錦江湾から見える桜島の雄大な景色も大好きです。
私は子育て世代でもあるので、東京での子育てが保育園の激戦区できついという部分もあったんです。鹿児島だったら住む場所にそんなにこだわらなければ、割とすぐ保育園に入れる所が多いんです。仕事しながら育児っていうスタイルを考えている人にとっては、やっぱり暮らしやすいなって思っていますね。

吉満:私も自然が近くにあるっていうところが好きなんですが、特に鹿児島市の場合、自然も近くにありつつ、程良く都会なところがいいですね。私は天文館がある鹿児島市の中心部の近くに家も事務所も借りています。仕事へ行って帰りに飲みに行くとか、気分転換に映画を見たり、カラオケに行ったり、買い物したりとか、そういう事が東京と同じ感覚でできるというところはいいですね。私はUターンして、急に田舎暮らしっていうのは難しいタイプだったので、自分が好きな生活をしつつ、自然にもすぐアクセスできるところは凄くいいなとしみじみ思います。

■仕事について

中野:鹿児島ではクリエイティブ関連の専門資料が少ないかなと思います。「(クリエイター向けに様々な種類の紙製品を取り扱っている)青山見本帖」のような場所は鹿児島にはないので、個人で取り寄せないといけないのですが、それも限界があるからどうしようと。簡単に印刷用のサンプルを取れないというか、見に行けないみたいなところもあって、その辺が割と苦労していますね。
あとは自分にインプットできる場所が東京に比べて少ない。その辺もちゃんと自分で積極的に取りに行く姿勢を持って勉強しないと難しいなと思ったりしました。市内にも美術館はあるけど、現代アートみたいな展示は霧島アートの森まで行かないとなかなかやっていない。その辺がこれから頑張ってほしいなと思う反面、自分もそういう様な動きができるような人になっていかなきゃなと思っています。
でも、良かったところは、豊富な自然があるというところで、その自然からのインプットがたくさんあるから、それを踏まえた上でのアウトプットができる。それは多分東京ではできないだろうなって思います。

吉満:私はウェブデザインがメインなので、資材とか紙の見本とかグラフィック系の苦労はそこまではないんです。ただ、県外のクライアントさんも結構いらっしゃるので、オンラインの打合せだけでも仕事はできるんですけど、初めての方とか、なるべく会いに行くようにしています。そういう時に東京や大阪、福岡には、鹿児島からでも便も多いし、安い飛行機もあるので、気軽に行けるのはいいところだなと思いますが、他の地方都市には結構行きづらい。例えば、新潟だと一回東京へ行って、そこからまた飛ぶみたいな感じで、アクセスがしづらいのは地方都市にいるゆえの悩みだなって思っています。
あと、やはり話題に上がるのがギャランティーの事ですかね。私は鹿児島だから安いっていうより、人それぞれだなって思うことが多いですね。鹿児島のクライアントさんでもすごく理解があって、クリエイティブなことに対してちゃんとお金を払いたいと思ってくださる方もいらっしゃいます。とはいえ、事業規模的になかなかそんなに出せないよっていうところもあって、それに対して私はこれまで結構受け身でやってしまっていたんです。クリエイティブに対して「経費じゃなくて投資だよ」と思っていただき、十分な金額を出してもらえるよう働きかける努力が足りなかったなと最近感じています。そういうふうに思ってもらうために、もっと結果が出せるものを作らなきゃいけないし、もっと自分自身スキルアップしなきゃいけないなと感じています。それができれば、地方でも全然やっていけるんじゃないかなと感じているので、頑張らなきゃなと思っているところでした。

■「つながり」について

吉満:一つお仕事をやると、そこから次のお仕事に繋がることが多いですね。私は移住してくる前、深山の「朝マルシェ」というイベントのフライヤーをずっと作らせてもらっていました。その時はまだ独立するつもりもなくて、移住して来たらどこか会社で働こうと思っていたんですね。でも、そのフライヤーを通じて「あのフライヤーみたいなものを作って欲しい」という話があり、地域でのデザインはすごい楽しいなって思ったり、繋がりができたりして、そういう事がすごく嬉しくて、独立に至ったところがあります。そういった形で1個やると次のお仕事に繋がっていくところは、コミュニティが狭いからこそあるんでしょうね。それはいいところなのかなと思っています。

中野:そうですね。割とすぐ繋がるというか、しかも紹介してくれるのが、その辺の人じゃなくて仕事をやる上で信用がある人だったりというのは凄いなと思っています。さっきも吉満さんが言っていた「色んなイベントに顔を出して、その繋がりを」っていう事を、私もよくやってたなと思い返しています。当時、移住関係のイベントも多かったですが、今はそれこそオンラインですぐ繋がれますよね。まず何でもいいからとにかく顔を出して覚えてもらって、「何かあの人、気になる」という存在になれば、「今度仕事をお願いしてみようかな」っていう段階になっていく。その流れは、東京とかに比べて、鹿児島の方が割と早いなと思います。まず「人きっかけ」で戻って来るのが一番早いかなと思うので、その辺りをしっかりやった方がいいと思います。

■未来について

中野:今はまだリノベーション中なのですが、自分で自宅兼仕事場としての拠点を持ちました。鹿児島にはコロナ前まで、コワーキング・スペースがほぼなかったんですけど、最近はとても数が増えています。最初はコワーキング・スペースみたいな場所にしようかなと思っていたのですが、それより何か別の使い方ができる場所がいいなと考えています。例えば、クリエイターさん同士がコミュニケーションを取れるような場所だったり、県外からアーティストを呼んで個展ができるギャラリーとか、鹿児島の人に見てもらえる場を作っていこうかなと。あとは子供達がデザインとかモノづくりに触れられるワークショップができたりというのも、楽しそうだなと思ったりしています。そういう「場をつくる」ということを今後テーマにしてやっていこうかなと思っています。

吉満:私は鹿児島に戻って独立してからちょうど1年半経って、少し落ち着いて、「ああ、こんな感じでフリーランスってやっていくんだな」とか、「鹿児島で暮らすってこんな感じなんだな」っていうのが分かってきたところです。
次は、結果を出していきたいなと思っています。特に私はオンラインショップ関係のお仕事が多いので、売上数字が結果として出てきます。そんなに簡単に売れるっていうものでもないけど、継続的に一緒にやらせていただいて、オンラインショップで商品がちゃんと売れるように、数字を残せるようにというところに、こだわってやって行きたいなと思っています。

■動画をご覧の皆様へ

中野:移住って言うと結構重く感じちゃうんですけど、「何か自分が変えてやる」と思っても、多分、やっぱり失敗しやすいのではないかと思います。「鹿児島ってどんなものなんだ?」という、何か気軽な感じで来ていただいて、鹿児島の空気感をちょっとでも味わってもらえたらいいなと思います。何か一緒にモノづくりしてくれる方がいたら、一緒に楽しいことをしましょう!

吉満:鹿児島のいい所であり、悪い所にもなるかもしれないけど、やっぱり一人繋がるとどんどん繋がるっていうところがあります。私は移住してくるまでに移住関係のイベントとか結構まめに参加するようにしていました。移住してからも、元々いた高校生までのコミュニティと、これからやりたい仕事とかのコミュニティはまた違うので、そういう人たちと繋がるために色々イベントとかには参加するようにしています。そこで繋がったご縁で今があるなって感じますし、すごくお仕事にも繋がっているし、お陰でプライベートも楽しくできているなと思っています。ちょっとでも気になるなって思ったら、今、オンライン開催も多いと思うので、そういったイベントに参加されるときっかけが掴めるんじゃないかなと思います。ぜひ私とも繋がっていただいて、お仕事を一緒にできたらいいなと思っています。