【クリエイター対談 vol.8- 久保勇仁 × 田渕一将】

鹿児島市ではクリエイティブ産業振興の一環としてクリエイターの移住促進に力を入れています。2023年度は、ここ数年で鹿児島にUIJターンしたクリエイターの方々を中心に2人ずつ登場していただき、鹿児島へのUIJターンを経験した中でのおすすめポイント、苦労話やクリエイティブシーンについて対談していただいています。全4回の動画で生の声をお届けしていますので、是非ご覧ください。

公開日時:2023/09/12

久保勇仁

1985年生まれ鹿児島市出身。高校卒業後は県外の大学へ進学。
沖縄、新潟の家具店に勤務し、家具づくりを学んだのち、2019年鹿児島市にUターンし「うちのうら屋」を開業。オーダーメイド家具を主に、木製品を販売している。
https://www.uchinouraya.com

田渕一将

1987年生まれ錦江町出身。
高校卒業後に関西の大学へ進学。大阪の建築設計事務所・住宅メーカーを経て、2019年に鹿児島に移住・独立し「おりなす設計室」を設立。住宅・建築の温熱環境や省エネルギーに関する知識や経験を活かした建築設計を企画・提案する。
https://www.orinasu-design.com

■現在の活動とライフスタイルなどについて

田渕:こんにちは、田渕一将と申します。「おりなす設計室」という建築設計事務所を設立して鹿児島市で活動しております。建築の仕事の中でも、特に環境配慮型に特化した建築設計に携わっておりまして、企画設計などをさせていただいております。
よろしくお願いします!

久保:こんにちは。「うちのうら屋」というお店でオーダーメイド家具を製造販売している久保勇仁といいます。仕事の内容としては、鹿児島県の県木でもある「クスノキ」をメインとした家具づくりをしています。よろしくお願いします。

田渕:私と久保さんは鹿児島に戻ってきて約4年。ちょうどお互いが鹿児島に戻ってきたくらいのタイミングで知り合う機会があって、そこからなんやかんやでお付き合いをさせていただいている間柄ですね。

久保:田渕くんの奥さんとも一緒に仕事をさせてもらったり、住んでいる地域もちょっと近かったり。

田渕:先日も、うちの事務所用のテーブルを久保さんにつくっていただきましたね!

久保:ありがとうございます。

田渕:また、今動いている仕事でも特注のカウンターを拵(こしら)えていただく予定で、そういった形でお仕事としてもお付き合いさせていただいております。

■UIJターンのきっかけについて

久保:僕は県外の家具屋さんで働いていたのですが、いつか鹿児島に戻ってきて独立開業したいなと思っていました。5年くらい働いて「そろそろかな?」と思いだした時期があり、それからは鹿児島に帰省する度にちょっとずつ情報を集めたり、開業する場所を探したりしていました。
田渕くんは?

田渕:今36歳になるんですけど、30歳を過ぎたくらいで、自然が豊かで過ごしやすい鹿児島の良さに改めて気付き始めたというか、そう思うタイミングがあり、当時は大阪で仕事をしていたのですが、「鹿児島にどうやって戻ってこようか?」とか考えていました。そんな時にちょうど鹿児島市が開催している「リノベーションスクール」に参加させていただいて、「ああ、なんかもう面白い人たちいっぱいいるな〜」と思って、もう半年後ぐらいには鹿児島に帰ってきていましたね(笑)

久保:その時、奥さんの反対とかはなかった?

田渕:奥さんも都市部での活動とか、生活にちょっと疲れて限界を感じていたところもあって、鹿児島の自然豊かな環境で暮らしてみたいと考えるようになっていたらしく、自分と奥さんとのベクトルが30歳くらいの時に同じ方向を向いて、そこから本格的にいろいろ調べ出して、移住というかUターンに向けて動こうという流れに自然となっていきましたね。

久保:いいねぇ(笑)

田渕:久保さんは奥さん大丈夫だったんですか?

久保:うちの妻も同じ鹿児島出身で、まあいずれ二人で鹿児島に戻りたいよねというのは話していたので、特に何の抵抗もなかった。ただ場所を探したりするのに結構時間がかかって、なかなかスタートが切れなかったっていうのはありますね。

田渕:それは仕事をする場所?

久保:そう、仕事をする場所だね。

田渕:やっぱり結構なスペースが必要ですもんね。

久保:そうそう、作業をするスペースと環境がね。大きな音がしたり、木屑が出たりするので、そういうのが迷惑にならない、ちょっと郊外で広いスペースというのが、なかなか見つけられなかったですね。

■暮らしについて

田渕:鹿児島に戻ってみて、日々の生活の中で感じている暮らしやすさとかはどうですか?前に住んでいたところと比べて。

久保:沖縄に住んでいた時もちょっと田舎の方だったのですが、鹿児島に戻ってきてもちょっと都市部から離れたところに今住んでいるんですね。そしたら、遊ぶとなると、子供もまだ小さいし、あまりお金もかけたくなかったりもするので、海に行って魚釣りをしたり、水辺でチャプチャプ遊んだり、あとは山へ虫を取りに行ったりと、結構自然の中でのびのびと遊べているなぁというのはあるかな。
田渕くんは奥さんと二人で休みの日は何をしているの?

田渕:そうですね。前の生活との違いでいうと、以前は大阪だったので賑わっているところへすぐ行ける環境だったのですが、そういうところは人が多かったりして楽しいけれど、ちょっと疲れる感じがありました。でもUターンで戻ってきてからは、そういうところへはあまり足を運ばなくなりました。今住んでいるところからちょっと車を走らせれば海に行けたり、山に行けたり、「今日は夕日が綺麗そうだから吹上浜の方までちょっとドライブするか」みたいに気軽に自然豊かな環境に足を運べるというのが、鹿児島に戻ってきて暮らしが豊かになっている部分かなと思います。自分が元々大隅半島の錦江町というところの出身で、もう本当に海が身近で、自宅から出てすぐ海が見えるぐらいの生活だったので、そういった生活に近くなったのは自分の中の豊かさに繋がっているのかなと思います。

■仕事について

久保:高校を卒業してからずっと県外にいたので、鹿児島に戻ってきて、木材やガラスだったり金物だったり、どこで材料を仕入れたらいいのか、横の繋がりが全然ない状態からのスタートだったので、最初は結構苦労しました。自分の足で稼ぐじゃないですけど、「こういうのを探しているんですけど、どこで仕入れたらいいですかね?」とか聞きながらあちこち回るのがちょっと大変だったけれど、結果的にいい出会いに恵まれて、今は自然の中で仕事に集中できているので、良かったなと思います。

田渕:自分も建築の仕事なので、今おっしゃっていただいたような「誰と繋がっているか?」とか「どういった質のものを仕入れられるか?」とか、その辺りをちゃんと確立するというのは最初のハードルとしてありましたね。それはどうしても出てくる問題ですし、人との繋がりが欠かせない部分ですよね。
自分はリノベーションスクールに参加したことで、出会いたいと思っていた、鹿児島の建築に関わっている人たちと出会えて、今でもそこで繋がった人たちと仕事したりしています。いい意味でこの業界の中の繋がりがすごく密というか、都市部でクリエイターの数が多い地域とはまた違う良さがあるなと思います。「誰かこういう人はいないかな?」と思って探してみたら、わりとすぐに出会えたりとか、そういう良さはあると思います。

久保:紹介してもらえたりも結構あるよね。

■未来について

田渕:私も久保さんもほぼ同じ時期に鹿児島に戻ってきて、今5年目とかになるんですかね? 5年ってひとつの節目かなと思うんですけど、今後、久保さん自身のビジョンや展開、「こういったことをやっていく」という予定は、具体的にあったりしますか?

久保:今考えていることが2つあって、ひとつは、うちは鹿児島県の県木であるクスノキをメインで使っているのですが、昔はクスノキの家具って多かったけど、最近はあまり見ないので、クスノキの良さや、木目の綺麗さとか、香りも結構いい匂いがすると思うし、そういうのをちょっとずつ広めていけたらなと思っています。
もうひとつは、ざっくりなんだけど、鹿児島にはクスノキが山の中にも街路樹としても結構あるので、そういうのを何かしら上手く活用して、生えてきたのを使って、また生えてきたのを使ってみたいな、循環できる仕事を生み出していきたいなと思っています。

田渕:県木っていう認識があまり浸透されていなかったりしますかね?クスノキがあまり使われていないというのは。

久保:そうだよね。みんなもあまり知らないっていうのもあるかもね。

田渕:そうですよね。でも今、久保さんくらいしかそういった活動をされてないというのが特徴的な部分ですよね。

久保:田渕くんは、今後はどんなことをやっていきたいとかありますか?

田渕:そうですね。自分が鹿児島に戻ってきた4年前からすると、結構世界の流れが変わってきていて、建築のあり方みたいなのがすごく問われる時代になってきています。例えば、脱炭素社会に向けてどうするか?とか、エネルギーのあり方が今すごく見直されてきています。かと言って、建て替えをどんどん進めればいいのかというと、そうではなくて、今ある資源をどうやって活用していくか、そこに自分がやりたかった取り組みをどう取り入れていくか、ということが大事だと思います。
ざっくりと「環境配慮」という言葉でまとめていますが、建築のあり方ひとつで、そのエネルギーの使い方が変わったりすることもあります。機械に頼らなくて、つくり方で補える部分とかですね。そういった活動を鹿児島の中でもっと進めていかなくてはいけないなと思っています。鹿児島の工務店さんでも環境に配慮した活動を始めているところもあるのですが、現状はまだ住宅規模に留まってしまっているので、もっと大きな、特に公共の建築物などの在り方を変えていかないと、現に日本全体でも動き始めているところなので。自分も今後、よりいっそう環境配慮型の企画・提案をしていき、社会的に影響のある建築物に、自分の得意な分野で携わっていきたいなと考えています。

■動画をご覧のみなさまへ。

田渕:鹿児島市もそうですけれども、鹿児島県全体で見た時にいろいろな解決していかなくてはならない課題があって、クリエイターの仕事というのはその課題を解決することだと自分は思っています。なので、その課題を見つけることさえできれば、クリエイターのやるべきことはたくさんあると思います。
もちろん、それは我々のような建築の仕事だけではなくて、平面的なビジュアルのお仕事もそうですし、まだまだ足りていない箇所がいっぱいあると思うので、一度鹿児島に足を運んでみて、現状を体験していただいて、その課題を見つけていただけたら仕事(=課題)はたくさんあると思います。そしてぜひ一緒に課題を解決していってほしいなと思います。
鹿児島市には私も使用した「鹿児島市クリエイティブ人材誘致事業補助金」というのもあり、より活動がしやすい環境になっていますので、ぜひ上手く活用して、鹿児島を一緒に盛り上げていただければと思います。

久保:はい。鹿児島への移住(UIJターン)を考えていらっしゃる方は、来てみないと分からないことも多いと思います。実家がある方は帰省のタイミングとか、他の地域からの方は旅行のついでなどに、いろいろな方の話を聞く機会を設けて、そこからまたどんな風に移住へ向けて計画を立てていくのかを考えるのがいいと思います。
鹿児島は美味しいものが多くあったり、人情のある優しい人が結構多いと思うので、一歩勇気を持って行動してみるといいと思います。

田渕:ありがとうございました。

久保:ありがとうございました。