【クリエイター対談 vol.3- 押川蓮斗 × 山下ゆりな】
鹿児島市ではクリエイティブ産業振興の一環としてクリエイターの移住促進に力を入れています。2022年度は、ここ数年で鹿児島にUIJターンしたクリエイターの方々に2人ずつ登場していただき、鹿児島へのUIJターンを経験した中でのおすすめポイント、苦労話やクリエイティブシーンについて対談していただいています。4か月連続、全4回の動画で生の声をお届けしていますので、是非ご覧ください。
公開日時:2022/07/13
鹿児島の伊集院町で生まれ育ち九州大学芸術工学部を卒業。ドイツへの留学、総合広告代理店のADKで働いた後、2020年10月よりJターンで鹿児島の桜島へ移住。 桜島の地域おこし協力隊として地域案件の広報戦略設計から広報物制作を一貫して行う。農家や漁協といった地域産業や、市・県の取組を支援。主な案件は、桜島大根フェア・桜島大根コンテスト、桜島フェリーがする魅力発信Cool Ferry事業、鹿児島の里・山・海の幸PR事業など。
石川県出身。岡山県立大学デザイン学部卒業後、株式会社ケセラセラでWEBやグラフィックデザインなどに従事。2012年に結婚し、その後、第一子を出産。大阪でフリーランスとして活動後、2018年7月に夫の故郷・桜島にIターン。2019年からフリーランスに戻り、イラスト兼グラフィックデザインを手がける。 桜島関連では、桜島あるあるLINEスタンプ、さくらじま便り、公民館講座(イラストや顔彩)などに携わる。直近では、テレビ局の一部プロジェクトのビジュアル、猫グッズ、コロナ関連冊子、似顔絵などを制作。
https://yurina-yamashita.tumblr.com/
■現在の活動とライフスタイルなどについて
押川:押川蓮斗と申します。仕事は桜島で地域おこし協力隊をしています。桜島の地域事業者の方と一緒にデザイン関係の仕事や広報物の制作をしております。桜島で海や山が見える場所に住んでいて、今は温泉にどっぷりハマっています。
山下:桜島に住んでいます。山下ゆりなです。屋号も山下ゆりなです。仕事は、グラフィックデザインを手がけて冊子を作ったり、ポスターや名刺のデザインをしたりしています。イラストの仕事もしていて、似顔絵を描いたり、挿絵を描いたりしています。子供が二人いて、子育てがメインで、仕事がその次というライフスタイルでやっています。
■UIJターンのきっかけについて
押川:もともと出身が鹿児島でJターンになります。地域で何か活動がしたいということも相まって、まずは鹿児島市で何かできないかなと思って仕事を探していたら、桜島で地域おこし協力隊の仕事があるとお聞きして、ご縁あって桜島に移住してきました。
山下:私はIターンで桜島に来ました。大阪にいたのですが、1人目の子供ができても保育園に入れられなくて、自分のやりたいこともできなくて、結構それに悩んで育児ノイローゼになってしまいました。それで親を頼って移住をしようかということで、夫の実家がある桜島に来ました。
■暮らしについて
押川:実際に鹿児島に来て感じたことは、普段の暮らしの幸福度がとても上がったなということですね。前職では東京に住んでいたのですが、自然が近い場所ではなく、土日とかは街中で遊ぶという事が多かったです。こちらに来てからは山も海も近いので、妻と一緒によく登山に行ったりしています。霧島の方まで行って、その帰りに温泉に入ってゆっくりするというような休日の暮らし方ができるようになって、すごく心も体もリフレッシュされている気がします。
山下:登山をされていたんですか。
押川:以前はやっていませんでしたが、登山に行きたいなという気持ちはありました。元々鹿児島出身なので、自然の中にいる方が落ち着くなという実感もあったのですが、なかなか行けていなかったので、少し心に無理をさせていたのかなと思っていました。なので、こちらに帰ってきてから、存分に心も体も癒されているなというのを毎日実感しています。
山下:私は最初、どちらかと言うとメリットよりも「あれっ」と思うところが多かったんですね。まず言葉が通じないんですよね。お婆ちゃんとすれ違うたびに、私が子供を連れているので、「あ、むぜ(=鹿児島弁で可愛い)」と言われるのですが、本当に会話ができなくて。義父母もお隣に住んでいますが、何を言っているか分からなくて何回も聞き直して、ストレスや申し訳ないなという気持ちを強く感じました。(生活の為に)車を運転しないといけないのに、ペーパードライバーなのでどうしようとかも思いました。桜島には遊びに来たことしかないので、友達もいないし、それがとても辛くて(笑)。自分の足でどこにも行けないし、場所も分からないし、最初はかなり辛い思いをしていました。
押川:僕の妻もそうです。元々妻の出身は鹿児島ではないので。県外から鹿児島に来てもらって、友達がいないっていうのがやっぱりとても申し訳ないというか、寂しい思いをさせているんじゃないかなって思います。
ゆりなさんは、何か寂しくなくなるためにとった方法とかはありますか。
山下:まだ寂しいと思うところもありますが、少しずつ友達が出来てきましたし、車も運転できるようになれば自分の行きたいところにも行けるし、今はSNSとかで鹿児島の行きたい所とかも簡単に調べられますから。少しずつですが自分のやりたいように出来るようになって、過ごし易くなってきたかなっていうふうには思います。
押川さんは、桜島が噴火した時の灰とか硫黄臭が気になりませんでしたか?
押川:僕が住んでいるのは桜島の北側じゃないですか。実はあまり硫黄臭とか地鳴りとかもしないんですよ。むしろ山下家でご馳走になった事があったじゃないですか。その時にドンと聞こえたのが僕は実は初めてで、「こっち側ってこんなに聞こえるんだ」って思いましたし、同じ桜島でも位置によっては違う生活感なんだなと感じました。だから、硫黄臭とかもあまりしないですよ。
山下:灰の掃除とかしませんか?
押川:灰の掃除とかも、ほとんどしてないです。
山下:えっ、そうなんですね。
押川:もちろん、風向きの関係で、庭に灰がちょっと積もったりしていたら掃除しますけど。僕の家の方はあまりしてないですね。それが頻繁にあるんですか?
山下:そうですね。硫黄臭とか家の中にも入ってきますから。寝ている間も臭い。(笑)
押川:夜寝ている間はきついですね(苦笑)
山下:でも、桜島ならではの事なので。活火山に住むとか、なかなかないじゃないですか。まあ、いい経験かなとは思います。(笑)
押川:楽しめているのはいいですね。でも、それぐらいじゃないと桜島には住めないかもですね。
山下:やっぱり鹿児島に住むんだったら、桜島に住んだ方がお得感があるというか。せっかくなら活火山に住んでみてもいいかなという気持ちが最初はありました。
押川:「鹿児島の中でも、せっかくだったら桜島で頑張ってみるかな」という思いがあったのですね。
山下:そう思ったんですけど。でもやっぱり、住んでみたらみたで大変な所があるんだなっていうことが分かりました。(笑)
■仕事について
押川:地域おこし協力隊として活動させてもらっている中で、地域事業者の方と一緒に、広報物の制作のお手伝いをしています。元々こういう仕事をしている友人とかの話を、事前に聞いたりしていたのですが、仕事を作って地方に行くっていうことが主流なんですね。僕の場合は逆というか、こちらで新しく仕事を作っていくということの方が多いですね。
今まで、同じような価値観だったり、同じような場所・環境で育ってきている人たち同士での仕事が多かったなと、こちらにきて思うようになりました。元々デザインの大学に入って、そこから広告会社に入ったので、周りも制作会社とか広告関連の人が多く、その中で話し合いをしながら制作物を作っていくというやり方をしていました。ところが今は、地域にどっぷり入って、自分がその地域の人と話しながら物を作っていくという環境で仕事をしていて、以前と全く違っています。もちろん、どちらにも色々な人がいるんですけど、今は、以前とはまたちょっと層の違う人が周りにいますね。話が合うというか、地域への想いで共感できる部分があり、やり易い人もいれば、なかなかデザインやクリエイティブワークについて理解がない方がいらっしゃったりもします。そうなると、2倍3倍にも仕事量が増えたり、理解してもらうまでの説明に時間がかかったりしてしまうので、苦労はしていますね。
山下:理解してもらえない時もありますか?
押川:どっちもありますが、やはり理解してもらえないことの方が多いかなと思います。僕としては協力隊という立場にあるがゆえに、仕事をお断りっていうこともなかなか難しい。地域のために実情をなんとかしなければいけないという立場にもあるので、そういった意味での悩みは多くなりました。
ゆりなさんはどうですか?
山下:最初は本当に友達もいないし、もちろん仕事先とかもないので、大阪時代に仕事をさせてもらっていた県外の方々と、遠隔で仕事をさせてもらったりしていました。一旦落ち着いてきたら、こちらでも友達や繋がりができて、ちょっとずつお仕事を頂いたりしていますね。知り合いとか、またその知り合いからお仕事をもらったりする感じで、営業は特にしていないですね。
押川:営業なしで、つながりだけでの仕事って、憧れるというか尊敬します。
山下:いやいや、本当にやっている量はたぶん皆さんより少ないですよ。やっぱり子育てがメインですし、仕事できる時間がかなり限られているので、仕事量によりますけど、1ヶ月に1個とか2個とかしか出来ないですね。自分的には、昔デザイン会社にいたこともあって、量的にはちょっと物足りないなっていう感じはします。実績も出来ていかないので。でも、やれているだけありがたいと思っています。
■未来について
押川:今後やりたいことはあったりしますか。
山下:子供がいて、なかなか仕事の時間が取れなくて仕事の量が少ない、というのがちょっと悩みなので、子供が大きくなったら、もう少し仕事量を増やしたいですね。お仕事だけでなく、自分のオリジナル作品とかも作って展覧会などもしたいと思っています。
押川:いいですね!
桜島に僕たち二人とも住んでいるじゃないですか。それに最近、桜島にクリエイターだったり別の分野でも人が集まってきているんですね。そこで、僕が今後やりたいことは、桜島島内のクリエイティブ集団が作る、デザインカンパニーまでいかないかもしれないんですけど、デザインギルド的なものが出来ないかなと考えています。地域課題や桜島に関わるような案件を、そこで仕事としてやって行けたらいいなって勝手に妄想しています。
山下:おー、いいですね。
押川:例えば、桜島のお土産とかブランドのようなものをつくって、それが公に発信していけるようなものになればいいなと思っています。今も各事業者さんが色々なお土産を作っていますが、そこに桜島のブランドデザインを入れられたら、印付けにもなるかなと思っています。そういう事が出来れば、桜島の産品とかも生き生きしてくると思うんです。島内にいるクリエイターさんや、もしかしたらこれから移住して来るクリエイターさんと一緒に作ることが出来れば嬉しいですね。
山下:そういう集まりが出来れば、お友達が出来る。(笑)
■動画をご覧のみなさまへ。
押川:鹿児島は農業大国でご飯もとっても美味しくて、Jターンしてきたとき、僕はまずそこに感動しました。小さい頃に普通に食べていたものが、今、格段に美味しく感じていて、それも幸せだなと思う要因の一つです。そんな環境で、自然と関わりながら今お仕事ができているので、自分の人生観が実現された暮らしになっているなと思っています。デザインやクリエイティブの仕事は、もちろんどこでやっていても悩みはあると思いますが、鹿児島はまだまだやれるポテンシャルや余地がたくさんあると思います。街中に飛び出せば、もっとこうした方がいいのになあとか、そういう課題に出会う機会がすごく多くて、それを地域の中で行政と一緒に解決できているという充実感はすごくあります。是非、鹿児島に来て、まずは温泉にでも行ってみてください。
山下:私の子供達はとっても楽しそうに暮らしています。そこはすごく重要だなと思って子育てをしているので、それが何よりです。私は自分の中に二つ標語があって、迷っている時は、「今自分が動けなくなったら、死んだら後悔しないか」ということを、自問自答しています。大抵はやった方がいいなということになるので、迷っているんだったらやりましょうということです。もう一つは「推しは推せる時に推せ」です。鹿児島が好きとか、気になるのであれば「推し」なので、自分の気持ちがある時に動いた方が、とても良い幸福度を得られる思います。皆さんにお伝えしたいのは「推してる時に推せ」ということです。