出会いが次の作品を連れてくる。鹿児島で広がるアーティスト活動 - 佐藤周作
家族の転勤をきっかけに、東京から鹿児島へ。
アーティストの佐藤周作さんは、動物をモチーフに墨で描く作品を手がける一方、ガラスに描く画材「kitpas(キットパス)」を使ったウィンドウアートや、子どもたちと一緒に描くワークショップにも取り組んでいます。
移住から約1年。
鹿児島の自然や人との出会いの中で、活動の場はゆっくりと広がり始めました。
窓ガラスに描くアート、離島でのワークショップ、そして新しい風景を取り入れた作品づくり。
土地を巡りながら続くアーティストの表現の旅について、お話を伺いました。
アーティストとしての歩み
Q.アーティストとして活動を始めたきっかけを教えてください。
佐藤さん:大学の卒業制作あたりから、動物を作品のモチーフとして描き始めました。もともと油絵を習っていて、印象派の風景画が好きで、自分でもよく描いていたんです。進路を考えたとき、最終的には「日本のアートとして、自分だけのものを持ちたい」という気持ちが強くなって。たまたま訪れた動物園のゾウに感動し、墨と動物という組み合わせで、自分のスタイルを形にしていきました。
卒業後はすぐにアーティストとして独立したわけではなく、Webデザインの会社が運営するギャラリーカフェに就職して、20代の約8年間は、展示の企画や運営、飲食業務に携わりました。
最終的には取締役も務めましたが、30代になった頃から「本格的にアーティストとしてやっていこう」と決意し、それから10年ほどになります。20代でそうした運営の経験を積ませてもらえたことは、今の活動にも大いに活きていると感じています。
Q.作品のスタイルについて教えてください。
佐藤さん:動物と墨をモチーフに、基本的には黒一色で描いています。一色の中でも線の太さや密度の違いで、形を表現していくスタイルです。
アトリエは今のところ単独では持っておらず、生活空間の一部を制作スペースとして使っています。生活と制作の切り替えはなかなか難しいところもありますが、ご飯を食べる場所と寝る場所は意識的に制作スペースと分けるようにしています。
ウィンドウアートなどの大型作品は現地制作が多いので、画材だけ持って出向くスタイルです。大まかな構図をイメージして現場に入り、その場で直接描き始めます。「キットパス」は修正もきく画材なので、描きながら調整していける点も気に入っています。
「キットパス」という画材との出会い
Q.「キットパス」とはどのような画材ですか?
佐藤さん:ガラスに描けるチョーク、というイメージです。神奈川県川崎市に本社があるチョークメーカーが開発した画材で、発売から20年ほど経ちますが、近年はウィンドウアートの普及とともに注目されるようになってきました。窓ガラスの内側から描くので、外から雨が降っても作品が濡れる心配がなく、消したいときは水で簡単に拭き取れます。クレヨンより少し柔らかく、伸びが良く、発色もきれいです。
この画材を開発したメーカーは、障害者雇用にも積極的に取り組んでいる企業です。チョークの需要が学校現場のデジタル化によって減っていく中で、キットパスがその新しい可能性を切り開く画材として位置づけられています。私は3年ほど前からこのメーカーのアーティストとして関わっていて、全国各地でワークショップや制作活動を行っています。
kitpas(キットパス) 日本理化学工業株式会社
Q.実際にどのような場所で制作されているのですか?
佐藤さん:東京ベイ潮見プリンスホテルのような大型施設の窓ガラスに描くことも多く、かなり大きな作品になることもあります。窓ガラスの上で、その場で色を混ぜながら描いていくので、光の当たり方によって見え方が変わります。透過する光の質感を活かせるのが、ウィンドウアートならではの面白さだと思っています。
壁画と違って現状復帰できる点も、ウィンドウアートの強みです。建物には大きな窓があることが多いので、ほぼあらゆる場所で展開できます。子どもと一緒に描いたり、地域活性のイベントに組み込んだりと、使い方の幅が広いと感じています。
家族の転勤と鹿児島移住
Q.鹿児島に来られたきっかけは?
佐藤さん:家族の転勤です。昨年(2025年)4月に鹿児島市に引っ越してきました。私自身はどこでも仕事ができる環境なので、転勤であればそれも一つの流れかなと思いました。
それに、逆に落ち着いて制作できるかもしれないという気持ちもありました。
鹿児島は以前からいつか来てみたいと思っていた場所です。長年お世話になっている先輩が与論島で15年ほど活動されていて、つながりのある場所でもありました。まさかのタイミングで鹿児島に縁ができたわけですが、知っている人がいるというのは心強かったです。
Q.鹿児島に来てみての第一印象はいかがでしたか?
佐藤さん:桜島の降灰については覚悟していたのですが、思ったより気になりませんでした(笑)。天文館あたりは少し多いようですが、今住んでいるところは降るときは降るものの、日常的に大変というほどではないですね。
「ご飯がおいしいから太るよ」と言われていたので、こちらに来てからジムに通い始めました。40代に入ったこともあって、体力づくりも意識しています。
気候は本当に暖かくて過ごしやすいです。1月でも穏やかで、制作にも暮らしにもいい環境だと感じています。
鹿児島での活動と人とのつながり
Q.鹿児島での活動はどのように広がっていきましたか?
佐藤さん:もともと同じ会社にいた先輩が、天文館にあるシェアスタジオで10年以上活動されていて、今年は一緒に場所を使いながら何かできないかという話が出ています。引っ越して間もない頃には、お試しでワークショップもやらせていただきました。
昨年11月には与論島を訪れ、先輩とのつながりで小学校とこども園を紹介していただき、子どもたちと一緒にウィンドウアートを体験するプログラムを実施しました。
ありがたいことに好評で、こども園から改めてお声がけいただき、今月末にもキットパスを使ったワークショップに行く予定です。昨年は東京や関西での活動が多かったのですが、今年に入って、鹿児島での活動も少しずつ動き始めてきました。
Q.地元の方との交流はどのように生まれていますか?
佐藤さん:先輩に鹿児島の交流会を教えてもらい、参加するようになりました。
あとは、ジムに通い始めて、レッスン仲間と飲みに行ったりするようになりました。最初は体力づくりが目的で通い始めたのですが、子育て中の方が多いこともあって、インスタグラムのフォローをしていただいたり、「東京でやっているようなことを、鹿児島でもやってほしい」という声をいただいたりして、そこから活動の口コミが少しずつ広がっています。
一度つながると、次のつながりも紹介してもらえることが多くて。鹿児島の人は温かいなと感じています。気候が暖かいからなのかな、とも思ったりしています(笑)。
Q.子ども向けの活動には特別な思いがあるのですか?
佐藤さん:もともとアーティスト活動で展示をしていると、どうしても来てくださるお客様の年齢層が高めになりがちで。子どもたちにアートを身近に感じてもらえる場を作りたいという気持ちは、以前からありました。
キットパスのワークショップでは、アクリル板に身近な生き物を描いてもらい、それを空や海にかざして写真を撮るフィールドワークを組み合わせることも企画しています。子どもたちにとって、毎日見ている星空や夕陽は「当たり前」になっていて、気づきにくいかもしれない。そうした地元の魅力を再発見するきっかけにもなれればと思っています。離島ではアートに触れる機会が限られているので、子どもたちにとっての刺激やきっかけになれたら嬉しいです。
資格取得とアーティストとしての信頼づくり
Q.昨年、放課後児童支援員の資格を取得されたそうですね。
佐藤さん:はい、鹿児島で勉強して取得しました。子ども向けの活動をする上で、親御さんに安心していただける根拠を持っておきたいと思ったのが理由の一つです。特に男性がさまざまな場所で子どもと関わる活動をするとなると、世間の目も気になる部分があって。
離島など受け入れてもらいやすい場所で実績を積んでおいて、将来別の土地に移ったときにも「こういう活動をしてきました」と説明できる形を作っておきたいという考えもあります。アーティストという肩書きはあくまで自称になりがちで、社会的な信頼という意味では弱い部分がある。資格や実績という形で積み重ねておくことが大切だと感じています。
鹿児島の自然と制作へのインスピレーション
Q.鹿児島の自然は制作活動に影響を与えていますか?
佐藤さん:はい、少しずつ影響が出てきています。こちらに来てから制作した作品には、自然の背景を取り入れるようになりました。霧島の美術展に出展したり、水墨画展に参加したりする中で、鹿児島の風景や植生を作品に入れてみたいという気持ちが生まれてきました。ヤシの木なんて東京では描かないですし(笑)、次は桜島をモチーフに入れた作品を描こうと思っています。
移住がきっかけで新しい表現の扉が開いた感じがしていて、全国各地を移り住むからこそ生まれるインスピレーションというのがあるなと感じています。
Q.鹿児島の離島や動物にも関心があると伺いました。
佐藤さん:動物が作品のモチーフなので、行く先々でまず動物園を調べることから始まります。鹿児島市には「平川動物園」があるので、テンションが上がりました(笑)。
北海道では流氷を見て野生動物に出会ったり、奄美ではアマミノクロウサギを見るツアーに参加したりしました。
今後、徳之島や沖永良部島での活動も計画しています。観光地より、地元の方が行くようなお店や自然の中に面白いものがあることが多いので、霧島神宮の大きな御神木や、指宿の野生の馬がいる場所なども気になっています。
移住を考えているクリエイターへ
Q.鹿児島への移住を考えているクリエイターの方へ、メッセージをお願いします。
佐藤さん:まだ自分自身も探り探りですが、やはり人とのつながりが一番大事だと感じています。都市部では人が多い分、コミュニティが固定化されやすくて、それぞれが独立して活動していることが多い。でも地方では「何か起こしたい」という共通の意識を持っている人が多くて、自分が何をやりたいかをどんどん発信していると、自然とつながりが広がっていく感覚があります。
SNSでのつながりも大切ですが、実際にリアルで会った人との縁にはかなわない。積極的に顔を出して、いろんな人と会うことをおすすめします。それと、制作にこもりすぎず、鹿児島ならではの楽しみを持つことも大切だと思います。ジムやスポーツ、お祭り、花火など、趣味のつながりからまた新しい縁が生まれる。制作に行き詰まったときの心の安定剤にもなりますし、アーティストであれば平日に美術館や映画館をゆっくり楽しめるのも地方ならではのメリットです。
東京から来て、馴染めるかどうか不安でしたが、一度つながればいろいろ紹介してもらえて、「よそから来た人」という感覚は、あまり感じませんでした。
まだ訪れていない場所もたくさんあるので、これから少しずつ鹿児島を巡りながら、自分の作品にもその風景を重ねていけたらと思っています。
佐藤周作 https://www.instagram.com/shusaku_sato/
kitpas(キットパス) https://rikagaku.co.jp/pages/kitpas
